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「ミステリーの中のお誕生日プレゼント」 前島純子 プロフィール

祝ってもらうのは、
いくつになってもうれしい女心


 リトル・パドックスの料理場で、ブラックロックはミッチーにいろいろといいつけていた。
「いいわ、イワシのサンドウィッチは、トマトのと同じようにしてね。それから、この小さいスコンはうまく作ってよ。それでと、ミッチー製のスペシャル・ケーキね(中略)
「そうよ、バンナーの誕生日なの、それでお客さまをお茶にお招きするのよ」
「でも、バンナーさんぐらいのお年になると、だれだって誕生日はやらないものですけれど、忘れたほうがよろしいですわ」
「そうね、だけどあの女は忘れたくないのよ。みなさんがプレゼントを持ってきてくれるし」(『予告殺人』アガサ・クリスティー/ハヤカワ・ミステリ文庫)

 誕生日を祝ってもうのは、いくになってもうれしいもの。
 若い時はむろんのこと、"いくつ"なのか数えるのを忘れたい年齢となっても、お祝いの言葉やプレゼントをもらうのは格別、というのが女心かと思う。
 右に引用した老嬢バンナーも、60歳を過ぎながら、例外ではないらしい。
 となれば、女盛りにならんとするジェニーのように、あつあつホヤホヤの恋人が朝食をベッドに運んできて(ここが肝心!)、そこにさり気なく贈り物が添えられていたら、うれしさもひとしお。
 文字通りハッピーバースデイ気分で――。

ジョークをまぶした、
愛のお誕生日プレゼント


 バターつきのイングリッシュ・マフィン、摘みたてのクローバーのような匂いのするはちみつ、そしてきれいに包装してリボンをかけた誕生プレゼントがあった。
「わたしに?」わたしは間の抜けた質問をした。うれしかった。だから誕生日はやめられない。(『死者は惜しまない』ナンシー・ピカード/ハヤカワ・ミステリ文庫)

 マサチューセッツの港町ポート・フレデリックの市民財団所長を務めるジェニー・ケインは、財団に関わる連続殺人事件で、刑事になっていたハイスクールの上級生ジェフと再会し、ときめいてしまう。やがて犯人から命を狙われたジェニーは、おびえきってジェフの家に避難し、17歳の時から好きだった告白されて……というハラハラドキドキの状況下での、30歳の誕生日の朝のシーンなわけ。で、そのプレゼントの中身は?
 英語でないとピンとこないけれど、ジェフの"ぞっこん"というセリフがヒント。
 
 そうか。そうか。中身はミックスナッツの小箱だった。添えられたカードにはこう書いてあった。「ジェフリー・ブッシュフィールドはきれいなジェニー・ケインにぞっこんです」の追伸があった。「このカードとカシューナッツ一個で、ニューヨークシティのすてきな週末と交換可能。選ぶのは自由」
「誕生日って大好きなの。顔がゆるんじゃう」
「そんな気がしたんだ」
 彼はあっさり言った。

 ジェニーでなくとも、こんなジョークをまぶした愛のプレゼントをもらったら、顔も心もゆるんじゃうと思うけど、なかなかここまで洒落た手管を使える男って少ないのが現実。プレゼント上手って、ユーモアが決め手といえるのかもしれない。贈る側も、もらう側のリアクションも含めて。

プレゼントをボックスの中身は、
新築アパートの鍵!


 ところが、女探偵キンジー・ミルホーンの場合は、他人に頼らずに生きていけと伯母に言い聞かされて育った一匹狼だから、他人の好意を素直に受け取るのが苦手。パーティで人に交わるより孤独でいることを好む性格は、ユーモアとは縁遠い。へたをすれば、誕生祝いなぞ余計なお世話とかみつきそうなタイプなのだ。しかしキンジーが父親とも思う82歳の家主ヘンリー・ピッジは、そのくらいお見通し。彼女が早朝のジョギングから戻ると、「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユーウーウー!」と歌いながら出迎えて――。

 お祝いの歌を歌われるのは苦手だったが、彼の歌があまりにへたくそだったので、苦笑して素直に喜んでみせるしかなかった。(中略)ヘンリーは贈り物用に包装された宝石店の箱をわたしに手渡した。(『探偵のG』スー・グラフトン/ハヤカワ・ミステリ文庫)

 箱の中身は『証拠のE』の事件で爆破されたアパートの代わりに新築したアパートの鍵。ヘンリーがキンジーに内緒で内装をデザインしたもので、こういう大きな誕生プレゼントもちょっとないだろう。内装には関心なしと断言していた彼女も、予想を越えた出来栄えを見て感激。感謝の言葉に詰まってしまう姿に固い殻の内のナイーヴさがにじみ出て、ヘンリー大満足。
 さらに夜、なじみのロージーの店に出かけたキンジーは、友人たちのサプライズパーティに度胆を抜かれ、ケーキやプレゼン責めに、照れてとまどう。
 他人のやさしさを拒否して生きる強がりもこれまで、とホロリとさせるワンシーンだが、やさしさを知った女探偵は、いっそうタフになるだろうことも予感させる33歳のバースデイ。主人公の心の変化も描く、シリーズものの妙味を堪能して欲しい。

娘たちの恒例プレゼントは、
特注ケーキ、真紅のバラ、
そしてシャンパン


誕生日に欠かせないものといえば、バースデイケーキだけど、これがいつの時代から始まったものかは定かではない。ただ、スポンジケーキに近いものが登場するのは、17世紀に入ってから。そのスポンジケーキにクリームがけのデコレーションをするようになるのは19世紀も末のことなので、ろうそくを立てたおなじみのケーキの姿が生まれたのが20世紀になってからの話であることは確かなよう(日本へは、第二次大戦後にアメリカから伝えられた)。幸運を招くために、ろうそくの数は年齢より1本多くする習慣もあるそうだが、ハタチを過ぎれば、ケーキは一面のろうそく畑となってしまうし、数える気分でもなし。そこで、ブロンクスの名探偵、ママに習うことにしたい――。

 三本のローソク――一本はママのほんとうの年齢のため、一本はママがひとにいう年齢のため、そしてもう一本は幸運のため。(『ママは何でも知っている』ジェイムズ・ヤッフェ/ハヤカワ・ミステリ文庫)

 何とも味な計らいではない? これならハタチも還暦も一緒に祝えてしまう!
 とはいえ、ろうそくの数にこだわらず、デコレに凝ったケーキも捨てがたいパトリシア・モイーズのティベット警視シリーズ『死の贈り物』(ハヤカワ・ミステリ文庫)では、英国の富豪の未亡人レディー・クリスタルの誕生日が要となり、外国に嫁いだ3人の娘たちがプレゼントを持って集う様子が描かれる。
 まず、スイス人と結婚した長女はローザンヌの老舗メゾン・ボネーに特注したケーキで、砂糖のバラの中にマジパンで作った小さな山荘が立ち、周囲には〈クリスタル、誕生日おめでとう〉の文字が入っている洒落たもの。オランダ人の園芸家と結婚した次女は真紅のバラを2ダース。デキサスの大金持ちと結婚してフランスに住む三女はシャンパン1ケース、というのが娘たちの恒例のプレゼントだ。
 この優雅なパーティの席上で、プレゼントに囲まれ、幸せに酔ったクリスタルは、しかしその何れかに仕込まれた毒によって倒れてしまい……ティペット警視の推理が冴える1冊といえる。

シャレでなくなってしまった、
恐怖のサプライズパーティ


 最後はサイコ・サスペンスから、じわっと怖い誕生日を。ウイリアム・カッツの『恐怖の誕生パーティ』(新潮文庫)だ。
 物語は、結婚して8カ月の幸せいっぱいのサマンサが、夫の40歳の誕生日に正真正銘のサプライズパーティを開こうと計画するところから始まる。先のキンジーの例といい、欧米ではサプライズパーティが盛んみたいで、日本人に比べ、パーティ慣れしたパーティ好きの性向がよく現れていると思うのだが、サプライズといっても、パーティを開くこと自体を内緒にするのか、どんな種類のパーティかを秘密にしておくのか。驚かせ方もひと通りではないとうわけ。
 サマンサの場合は、夫の過去をたどって、世話になった人や同級生などを捜し出し、いわば人生の同窓会を開いてあげたいと考えた。ところが夫の語った出身校にも出身地にも夫の記録はない。愛し、信頼していた夫の過去が偽物だと知ったばかりでなく……。
 サスペンスゆえ、一気に誕生パーティ当日。緊張を隠し、サマンサが準備したパーティの趣向は、オーケストラバンドに、ビデオ屋、バーテンやシェフたち仕出し屋を雇う華やかなもの。帰宅した夫は、自分の会社でサプライズパーティ(またも!)を開いてくれて、プレゼントを貰ったと彼女の肖像画を差し出す。愛し合う夫婦に、配偶者の肖像画を贈るのはグッドアイデアといえそうだが、当のサマンサはそれどころではない(余談だけど、離婚寸前の夫婦にこういう物を贈ったら、まずいでしょうねえ。プレイバシーに関わるプレゼントは相手をよく知っていることが肝心)。
 やがて、パーティはクライマックスに向かって突き進み……結末にはビック・サプライズプレゼントも用意されている。恐怖サスペンスの傑作。中身は開けてみてのお楽しみ!

まえじま・じゅんこ コラムニスト。東京生まれ。雑誌の編集者を経てフリーに。フランス料理のレシピからレストラン紹介まで、食に関するテーマを幅広く手がける。ミステリー書評、オペラ、演劇などのステージコラムニストとしても活躍し、狂言や文楽をはじめ伝統芸能にも造詣が深い。『探偵たちの食卓』(早川書房)、『おいしい野菜料理ブック』(じゃこめてい出版)、『食いしん坊グルメノート』(アンアンの本。マガジンハウス)、『狂言の人間国宝・茂山千作さんのお話をまとめた『京都1年』(世界文化社)ほか著書多数。

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